西日本豪雨災害 犬たちと猫との避難生活と引っ越し 2018年7月~

 

いつもの大雨とは違う ペットたちを連れて避難

 

2018年 7月6日金曜日。

この日は,昼間から雨が降り続いていました。

 

大雨が降ると,向かいの山から庭に
よく鉄砲水が流れ込んできます。

 

今回も,ヤバいかもしれないな。

そんな予感はありました。

 

こんな時,
犬たちの居場所がいつも水浸しになるので,
数か月前にコンクリートを打って
犬小屋の高さを15㎝くらい
上げたばかりでした。

 

今回は犬たちが濡れなくてすむだろうと,
ちょっとホッとしました。

 

夕方,山から出た水が溝を超え,
道路に流れ出しました。

ここまではよくある話。
その水が庭まで来たら
床下に入るかもしれないので,
通気口はすべて板でふさいで回りました。

 

暗くなってからも,雨は激しく降り続き,
心配で様子を見に道路に出てみました。

 

小石が流れてきたら避難した方がいいと
何かで聞いたことがあります。

小石どころか10㎝以上ある大きな石が
道路にゴロゴロ転がっていました。

 

これは,普段の大雨とは違う。

避難した方がいい。

 

テレビも無線放送も
避難を促しています。

 

慌てて避難する支度をしていると,
犬たちがけたたましく吠え始めました。

 

庭を見ると,
コンクリートを打ったその高さまで,
既に水が上がっていました。

もう,床下には水が流れ込んでいます。

 

急がないと!

 

猫のチャーをかごに入れ,
ラッキーを車に引っ張り込みました。

 

ミルも車に乗せようとしますが,
首輪の交換に失敗して
首輪もリードもついていないので
乗せることがせきません。

https://d-marron.com/miru

泣く泣くミルを置いて車を出しました。

車を道路まで出し,門扉を占めるとき撮った写真。道路が川になっている。

 

首輪を外してからのミルの行動を見ていると
庭から出ることが可能でも
ひとりでどこかに行ってしまう心配は
なさそうでした。

翌日は土曜日で通学の子供たちも通りません。

山が崩れてくる気配があれば,
本能で逃げることができるかと,
門扉を少しだけ開けておきました。

 

車を出したものの,どこに行こう。

ラッキーとチャーを連れているから,
避難所は無理です。

ミルが気になるので,
あまり遠くには行けません。

 

とりあえず,
平地にある道の駅の駐車場に行くと,
他にもたくさんの車が停まっていました。

 

高速が通行止めになったり
土砂崩れで道がふさがれたりして,
動けなくなった人たちのようでした。

 

ここなら家にも近いし,人目もあるから
車中泊ができそうです。

その晩はそのままそこで
2匹と夜を過ごしました。

 

翌朝,雨が止んだので
家に帰ってみました。

まだ山からの水が道路を越して
庭に流れ込んでいましたが,
とりあえず山は崩れていませんでした。

ミルも無事でした。

でも,とても疲れているようでした。

あの状況の中,
ひとりで不安だったに違いありません。

一晩狭い車の中にいて
ストレスのたまったラッキーを庭に降ろすと
2匹は嬉しそうに舐め合いました。

庭が濁流で掘れて,
門の中に深い溝ができていました。

そのことに気づかず,
車で庭に入ったので,タイヤがはまって
パンクしそうになりました。

 

庭も駐車場もボロボロです。

濁流で掘れた溝にはまりパンクしそうになったので,毛布を入れて応急手当。そのあと土嚢を置いてもらう。
数日後の庭 門扉から駐車場まで

役場の方や近所の方が土嚢を置いてくださり
庭に入る水だけは
堰き止めることができました。

でも,山からの水は
まだ道路にあふれているし,
またいつ雨が降りだすかもわかりません。

ここはまだ危険です。

山が崩れてくる不安がぬぐえず,
家に戻る勇気は出ませんでした。

 

犬たちは2匹一緒のほうが良さそうなので
庭に放し,
私は車を隣の駐車場に入れさせてもらって,
昼間はそこでチャーと過ごしました。

山から変な音がしたら,
犬たちを庭から出して避難できるように
気を張っていました。

 

その夜もまた前夜と同じ道の駅の駐車場で
チャーと車中泊しました。

まだ帰れない人たちの車が
たくさんありました。

 

3晩目にはほとんど車がいなくなったので
車で寝るのは不安でしたが,
それでもまだ家に帰って寝るのは怖くて,
チャーと駐車場で過ごしました。

 

 

翌日は月曜日。
役場に行き,状況を相談しました。

 

ハザードマップで
うちの家は土石流の危険地帯にありました。

ですが,その危険地帯の中に
家が5件以上ないと
砂防ダムを検討する対象にも
ならないのだそうです。

家が2件しかないのでどうにもできません。
とにかく逃げてくださいと言われました。

 

「古い家を買って,
自分であちこち直しながら
頑張って守ってきた家です。

捨てて引っ越せということですか?」

 

「とにかく逃げてください。」

 

自力でどうにかするしかない返事だったので
その日から引っ越し先を探し始めました。

 

引っ越しを決意 SNSに助けられ 思わぬ家と出会う

 

住むところは簡単には
見つからないだろうと思われました。

とにかく大きな荷物が多いのです。

 

東京の展覧会に出品していた
F40~F60号の絵が20枚くらいと
その額縁が5つほど。

絵の具や画材も普通の家にはない荷物です。

猫はもうチャーだけになっていますが,
ミルとラッキーという
大きな犬を飼える場所も必要です。

 

三畳半の防音室の中にある
娘のグランドピアノを置けるような家を
借りることはできないでしょう。

 

娘が生まれてすぐ離婚したので,
「これがあなたのお父さんだよ。」
と,毎日練習させてきたピアノです。

娘が家を出てからも,
どんなにお金に困っても
手放す気にはなりませんでした。

でも,もう手放すしかありません。

 

SNSにそんな状況を書き込んだら,

「部屋が空いているから,
ピアノを預かりますよ。」

知り合いの方からメッセージが届きました。

 

ピアノを手放さなくてすむ!
ありがたくて涙が出ました。

早速ピアノの運送業者の予約をし,
引っ越し先を探し続けました。

 

そこに,またSNSを見た知り合いから,

「ちょうどいい家があるので,
見に行ってみませんか?」

という連絡が。

 

連絡をくれた方と一緒に
すぐに家を見せてもらいに行きました。

 

同じ町内で,
今住んでいるところから5㎞くらい離れた
大きなお家です。

 

古いけれど,1年ちょっと前まで
人が住んでいたということで,
荒れた感じはありません。

 

広いダイニングキッチン一間で
生活ができそうです。
その部屋にはエアコンもありました。

 

お風呂などは改築されていて,
今までとそれほど変わらない生活が
できそうです。

 

昔店舗だった広い土間のスペースがあり,
ここで絵の展示ができるかもと思いました。

その奥に8畳の板の間があり,
床は張り替えて間がない
しっかりしたものでした。

 

ここにピアノが置ける?!

 

しかも,
建具をはずした状態のそのスペースで
娘が弾き語りライブをする姿まで
目に浮かびました。

 

お客さんも30人くらい入れそう。

 

嘘のようですが,
仕方なく引っ越しする重い気持ちを忘れ,
ワクワクしている私がいました。

 

 

2階には8畳の畳の間が2つ
ぐるりと廊下で囲まれていて,
部屋の奥にはテーブルとソファーを置いて
くつろげそうな広いスペースがありました。

 

ここは畳が少し沈んでいて
隙間風も入りそうでしたが,
2階は使わなくても生活できそうなので
問題はありません。

 

 

「地下室もあるよ。」

 

連れて行ってもらうと,
ここもまた広い土間でした。

いくつもの部屋に
区切られていた跡があります。

 

「ここで犬が飼えるでしょう?」

 

外の暑さ寒さに耐えていた犬たち。

地下なら夏は涼しく,冬は暖かいはずです。

ここは泥水が流れ込んでいましたが,水が透明になるまでホースで流し,犬たちを入れました。

 

地下室から2段の階段を上れば
道路より2メートルくらい低い
裏庭に出られます。

 

石垣と建物に囲まれているので,
裏庭から道路には出られません。

いくつかの隙間をパテーションで塞げば,
リードで繋ぐこともなく,
のびのび過ごすことができそうです。

 

 

ここなら,すべての問題が解決する!

 

 

それだけでなく,これからの生活が
希望に満ちたものになりそうです。

 

私にとって,
これ以上の場所はないと思いました。

 

すぐに大家さんに連絡を取ってもらい,
貸していただくことになりました。

 

老朽化が進んでいるからと,
家賃を安くしてくださいました。

これまでには必要なかった出費なので,
安く住ませていただけるのは
とても助かります。

 

大事なものから運び出す

 

梅雨はまだ続いていました。

今度大雨が降れば,
山が崩れるかもしれません。

次の雨が降る前に,
大切なものだけでも運び出したい。

 

家を紹介してもらった7月11日から,
すぐに荷物を運び始めました。

 

 

まずは大切なものから救い出さなければ。

 

自分の絵はすべて,すでに
職場の美術室に運ばせてもらっていました。

職場の近くも大きな被害が出ていましたが,
美術室は4階にあるので安全です。

 

とりあえず,
危険にさらされているものを運び出して,
絵は落ちついてから
借家に移動させることにしました。

 

まずはペットたち。
(ミルは連れていけませんでしたが…)

次に楽器類。

その次は娘が写ったアルバムやビデオ。
娘の絵や工作など。

そのあとに家電や家具。

 

という順番に運びました。

 

 

ピアノは,預かってもらうことになった日に
すぐピアノの運送屋さんを予約していました。

一番早くて18日と言われ,
その日を押さえていたので,
運ぶ先を借家に変更することを連絡。

預かると言ってくださった方がいたから,
早く予約を取ることができました。

 

それまでに大雨が降らないことを
祈りながら,自分の軽自動車で
1日に何往復もしながら
運べるものを運び続けました。

 

ピアノを運ぶ前に,
庭の段差を埋めておかないと
運送屋さんが足を取られて危険。

前日に,道路に流れ出ていた土砂を
庭に運び込み,溝を埋めました。
この時も
近所の方が手伝ってくださいました。

 

ピアノを囲んでいた防音室は
持っていくか迷いましたが,

部屋を見た瞬間,
ライブをしている場面が
目に浮かんだわけだから

箱に入れてしまうのは違うな,と
手放すことにしました。

 

音楽活動をしている親せきの方が
防音室を買い取ってくれました。

そのおかげで,グランドピアノと防音室,
大学の卒業制作の150号1枚と
100号2枚の絵を運ぶ料金を
賄うことができました。

 

相談していた金額より
たくさん振り込んでくれていて,

「引っ越し祝いだよ。」と。

 

「お見舞い」ではなく,
「お祝い」と言われたことで,
新しい生活に希望が湧いてきました。

 

 

家具や電化製品を後回しにしたので,
1週間は猫のチャーと2人で
床にタオルケットを敷いて寝ていました。

 

家を紹介してくださった知り合いや,
友達も引っ越しを手伝いに来てくれて,

ベッドや布団,大きな家具などを運んで
もらうことができました。

 

たくさんの方たちに助けていただき,
徐々に新居での生活が
できるようになってきました。

 

首輪がつけられなかったミルを連れてきて 引っ越し完了

 

ラッキーは新居の裏庭で過ごしていました。

 

地下室に入るのは怖いようで,
夜も暑い昼間も,木の陰に隠れていました。

 

ミルはまだ首輪がつけられなくて
車に乗せられないままだったので,
荷物を取りに行ったときにエサと水をやり,
ひとり持ち家で過ごしていました。

 

梅雨が明けてからは
それほど危険もなさそうだったので,
門を閉めて出られなくしてありました。

 

ミルが離れていることに気づかず,
誰かがうっかり門を開けてはいけないので,
自転車盗難防止用のカギで
開かなくしておきました

 

夏休み中,毎日
荷物を運んだり新居の整備をしたりして,
8月後半にはだいたい普通の生活が
できるようになりました。

 

あとはミルを連れてくるだけです。

 

 

8月24日,
引っ越しの終わりを見届けるように,
腎臓病の猫,チャーが息を引き取りました。

 

 

ルナが死んだ翌日には,
初めてミルのお散歩ができました。

これはルナからのプレゼントのような
気がしていました。

 

チャーがミルの引っ越しを
プレゼントしてくれないかな。

そう思っていた時,

「明日,網を持って
ミルの首輪つけるの手伝いに行くよ。」

妹から連絡がありました。

 

広いネットのような網や虫取り網を使って
4人がかりでミルに首輪をつけ,
長い引っ越しは終わりを告げました。

 

この時の捕り物はミルのページで↓

https://d-marron.com/miru

 

 

 

残された我が家 その後

 

残された持ち家は
その後,空き家になりました。

 

時々必要なものを思い出して
取りに行ったり,
庭のイチゴやシソの葉を取って帰ったり。

 

庭の木は剪定しないと道路に出るので,
時々切りに行きました。

 

そんな時は犬たちも時々連れて行って,
慣れ親しんだ庭で遊ばせてやりました。

ミルはこちらの庭に帰ると笑顔になります。

 

 

庭をいじる気にはなっても,
家の中を片づける元気は出ませんでした。

元々片付けが苦手で,
娘が小さい頃のおもちゃなども
たくさん残っていました。

 

このままにしておくわけにはいかないとは
思っているけれど,
中に入って窓を開け,風を通すだけで,
床に散らかったものを見るとため息が出ます。

 

今の生活で手いっぱいで,
23年間過ごした家は,2年近く
夜逃げをした後のような状態のままでした。

 

あれから心配するほどの大雨もなく,
床下浸水して異様な匂いが消えなかった
脱衣所あたりも,それほど
匂いが気にならなくなっていました。

 

そんな頃,

今の借家を紹介してくださった方から,
流されそうになった家だと知った上で
借りたいという人がいるから,
中を見せてほしいと連絡がありました。

 

片づける時間もなく,
夜逃げ状態のまま見てもらって,
入居されることが決まりました。

 

捨てるものは置いていけば
捨ててもらえるとのこと。

大きすぎて運べなかった家具を運びだすのも
入居する方がトラックを借りて
手伝ってくださるという,
ありがたいお話でした。

 

大雨が降ると危険な家なので,
家賃は私が借家に払っているのと同じ
安い金額にさせてもらいました。

 

 

それからはまた,毎日
仕事帰りに持ち家に寄って荷物を運ぶ生活。

2か月後,入居されるその日に
なんとかすべての荷物を
運び出すことができました。

 

2020年8月2日,
本当の意味で,引っ越しが完了しました。