ミル 虐待されていた(?)雑種犬 オス 2012年10月~ 

2012年10月,
犬など飼える状況じゃなかったウチに,
最初に迷い込んできた子です。

 

虐待されていたらしく,
5年近く触らせてくれませんでした。

 

一緒に過ごす時間が限られた生活の中,
少し近づいては失敗してまた距離があき,
ということを繰り返しながら,

今も,ともに歩んでいます。

 

 

ミルと出会い,
犬なんて飼えるはずがなかった生活が,

いつのまにか,
犬中心の生活に変わっていました。

 

 

ミルとの出会いから今までをお話しします。

 

出会い

2012年10月の終わり,
少し寒くなりかけた頃でした。

 

当時高校生だった娘を車で迎えに行き,
駐車場に戻ったとき,
ヘッドライトが奥の物置を照らし,
垂れ耳の,白い犬の頭が見えました。

 

「え?! 犬がおるーー‼︎‼︎」

「はぁ?? 犬ぅ?!」

 

車から降り,2人で物置へ。

犬は怖がって,
どんどん奥へ引っ込んでしまいました。

 

懐中電灯で照らして探すと,その犬は
棚の空いている隙間に潜り込んでいました。

 

体長40cmくらいありそうでしたが,
顔は幼く,大型犬の仔犬のようです。

 

「どうする?」

「とりあえず,寒いけー,
毛布持って来よう。」

 

当時4匹飼っていた猫たちの毛布を,
1枚拝借してかけてやりました。

 

「お腹空いとるよね。」

「猫の餌でも大丈夫かな?」

 

とりあえずその夜は猫の餌食べさせ,
翌日犬の餌を買ってきました。

 

 

うちは,娘と私の2人だけ。

その頃の私の生活はとても忙しく,
犬の散歩をする時間はありません。

 

その時は猫が4匹いて,経済的にも
犬を飼う余裕はありませんでした。

 

娘とふたり,飼ってくれる人を
探しまわりましたが,
大きくなりそうだというと,
みんな無理だと…

 

 

決 心

 

仔犬は時々散歩に出かけては,
毎日物置に戻ってきます。

 

もうそこが自分の住処だと
思っているようです。

 

そうしているうち3週間が経ち,
だんだんその子に愛着が湧いてきました。

 

引き取ってくれる人がいない以上,
この子に行く場所はありません。

 

自信はありませんでしたが,
頑張ってうちで面倒みようか…
そんな気持ちになってきました。

 

「ねぇ、この子、ウチで飼ってもいい?
ちゃんと面倒見るから。」

 

娘に言うと,

「無理に決まっとるじゃろ!
お母さんに面倒見れるわけないじゃん!」

 

最初は反対していましたが,そのうち
仕方ないな,と,娘も折れてくれました。

(普通の親子の会話とは逆だと思いますが
うちの人間関係はこんな感じです)

 

 

うちの子になるなら名前をつけなきゃ。
ミルクのように白いから,

『ミル』

という名前にしよう。

 

娘と相談し,仔犬の名前はミルに決まりました。

 

首輪を見せたら… ミルは虐待されていた?

 

飼うと決めたら放し飼いにはできません。

 

車に轢かれたり,
愛護センターに連れて行かれないうちに
首輪をつけないと。

 

早速,首輪を買ってきて
つけようとしました。

 

ところが,首輪を見せると
ミルはおびえた顔をして唸り始めたのです。

 

何度か挑戦しましたが,
やはり同じ反応です。

とても首輪をつけさせてくれそうには
ありません。

 

犬に詳しくない私は,
どうしていいかわからず,

とりあえず首輪の匂いに慣れてもらおう

と,棲んでいる倉庫のスチール棚の柱に
首輪を巻いて,その場を離れました。

 

 

少し時間を置いて様子見に行くと,

 

え⁈

 

首輪は形がなくなるほど
歯形だらけになっていました。

もう使うことはできません。

 

ミルに似合うものを選んで買ったのに,
すごくショックでした。

 

でも,それ以上に,
なぜミルがこんなことをしたのか,
とても気になりました。

 

オモチャをかじって遊んだというより,
何か首輪に恨みでもあるんじゃないか,
そんな風に感じました。

 

後から考えると,この頃までミルは
撫でさせてくれていました。

 

迷い込んできた当初は,
娘が手を出すと,無防備にお腹を見せて
撫でさせたりしていたのです。

 

首輪を見せた途端に,
娘に撫でられることにも抵抗し始め,
さわれない子に変わってしまいました。

 

首輪に何か強いトラウマが
あったのだと思います。

 

そのことは,
麻酔を使って首輪をつけたときの
ミルの行動で確信しました。

 

ミルにとって,
首輪=「絶望」だったのだと。

 

もうひとつ,「おすわり」という言葉を
聞いても唸りました。

 

ミルにおすわりしろと言ったことは
一度もありません。

 

座っていたから,

「おすわりしてる! カワイイ!」

と言った時や,

 

お向かいのお家の人が
自分の家のワンちゃんに

「おすわり!」

と言っているのが聞こえてきても唸ります。

 

もしかしたら,
この子は虐待されていたんじゃないか

そう思うようになりました。

 

 

失 敗

 

今振り返ると,ここから私は,
かなり間違った選択をしてしまいました。

 

そのため,ミルとの距離を縮めるのに
大変な時間を要することに
なってしまったのです。

 

虐待された犬を
飼おうと思っていらっしゃる方は,

「同じ失敗しないようにしよう」

と思いながら
読んでいただけるとありがたいです。

 

 

一度無理にさわって噛まれた私は,

動物病院にお願いして麻酔を使って
首輪をつけてもらうことにしました。

 

これが1つ目の大きな失敗でした。

 

まだ仔犬だったのだから,
噛んでも大怪我をすることはありません。

噛まれながらでも
自分で首輪をつけるべきでした。

 

物置にいるところに
吹き矢で麻酔をしてもらい,
眠っている間に首輪をつけて,
車庫の柱に鎖で繋ぎました。

 

この,外に繋ぐという行為が,
2つ目の大きな失敗でした。

 

昭和の人間なので,
犬を室内で飼うという選択肢が
浮かばなかったのです。

 

 

目が覚めて,
首輪をつけられていることに
気づいたミルは,

暗くなった庭で
首輪を外そうと
長い時間,全力で暴れまわりました。

 

そして,どうしても外せないとわかった時

 

ミルは4本の足で立ったまま,
顎を地面に落とし,動かなくなりました。

 

全身から伝わってくる絶望感。

 

「助けてくれたと思ったのに,
お前らも同じだったのか。」

そう言われた気がしました。

 

ミルは私たちに失望し,
そして,私たちを見限ったのでしょう。

 

心を開くことはなくなり,
4年後ラッキーが迷い込んでくるまで,
ミルは触れない,
散歩もできない犬になりました。

 

 

麻酔をしてくださった病院によると,

この時ミルは,体重7㎏。

歯の状態から
生まれて4〜5ヶ月ということでした。

 

その短い時間の中で,
ミルはどんな目に遭い,
どうやってうちにたどり着いたのでしょう。

 

その上,
私が麻酔を使って首輪をつけたことで,
どれだけ傷ついたでしょう。

 

どんなことをしても,
この子に信用してもらえるようになり,
一緒に仲良く暮らしていきたい。

そう思いました。

 

 

傷ついた犬 ミルとの生活が始まる

 

それから,私たちは,
ミルのためにいろんなことをしました。

 

倉庫の中で吹き矢の麻酔をしたため,
ずっと棲みついていた倉庫には
二度と入らなくなったので,

犬小屋を買ってきて組み立て,
車庫の屋根の下に置きました。

 

庭に植木がたくさんありましたが,
ミルの長い鎖が巻き付くので,
サツキなど,かなりの本数を
根元から掘り起こして撤去しました。

 

 

食べ物を使うと仲良くなれると聞き,
いろんなオヤツで試してみました。

 

ある程度長さのあるオヤツの
端を持って呼ぶと,

恐る恐る来て,反対の端をくわえて
持って行くくらいにはなりましたが,

手のひらに乗せた食べ物を取ったり,
渡したものをその場で食べるのは
無理でした。

 

散歩に連れ出そうと,鎖を持って
庭の外に誘導したこともあります。

が,庭から出てすぐパニックになり,
溝にはまって動かなくなってしまいました。

娘に助けを求めて,
何とか庭まで連れて帰りました。

 

この時の写真をもとに描いた絵が

『I Want to Live』です。

I Want to Live  F15号

 

仕事が忙しく,
一緒にいられる時間が少ないこともあり,
ミルとの距離はなかなか縮まりません。,

一進一退を繰り返す日々でした。

 

その後も,ミルには
たくさんの試練が襲ってきました。

 

首輪をつけて2か月もしないうちに,
成長して首輪が食い込み,
首から血が滲み始めました。

大きいサイズの首輪に交換しなければ,
どんどん首輪は首に食い込んでいき,
ミルは死んでしまいます。

 

身体も大きくなり,
怖いことがあると
唸って噛みつこうとするので,

この時もまた,
麻酔を使うしかありませんでした。

 

病院の方から,
せっかく麻酔をするのだから
去勢手術も一緒にすることを提案され,
手術することにしました。

 

病院から先生とスタッフさんが
来てくださり,
ケージに引き入れようと
食い込む首輪に繋いだ鎖をケージ越しに
私と3人がかりで引っ張ります。

ミルは怖がって唸り,必死で抵抗しました。

暴れれば暴れるほど,
首輪が傷に食い込みます。

 

痛々しくて涙が出ましたが,
死なせるわけにいかないので,
無理矢理ケージに入れ,病院に。

 

首輪の交換と去勢手術を終えて
帰ってきたミルは,
ケージを車から降ろしても
丸1日,ケージから出てきませんでした。

 

ミルとの距離が
また,大きく広がってしまいました。

 

この時ミルは,
体重12㎏に成長していました。

たった2ヶ月で5㎏も増えるなんて,
この子はどこまで大きくなるのでしょう。

 

ミルがいじめられていたことに気づかなかった

 

少しでもミルとの距離を縮めたい。

 

腫れものを触るように,
私たちはミルと接していました。

 

そんなある日,
ミルが吠えるので庭に出てみると,

学校帰りの小学生たちが
はやしたてながら
ミルに庭の木の実をちぎって
投げつけていました。

 

通学路沿いにあるうちの庭は,
門扉もなく,庭のどこからでも
自由に出入りできました。

 

そういえば,以前にも
庭の真ん中に,
長い竹の棒が落ちていたことがあります。

 

普段は仕事に行っていて,留守の時間帯。

毎日こんな目にあっていたのに,
気づいていませんでした。

 

ミルは通学する子どもたちに
朝と帰りの2度いじめられていたのです。

 

すぐに防犯カメラをつけ,

ホームセンターで買ってきた柵で
庭の周りを囲みました。

 

車がする出入りする場所だけは
開けなければいけないので,
業者さんに頼んで
門扉をつけてもらいました。

 

全部で30万以上かかり
痛い出費になりましたが,
ミルのためなら仕方ありません。

 

娘は高校を卒業すると上京し,
うちには私とミルと
猫たちだけになりました。

 

首輪が切れそう 怖がりな犬 ミルの 危険な首輪交換

 

それからしばらくは大きな変化もなく,
ミルもある程度落ち着いて
生活できるようになっていました。

 

一緒に遊ぶことはできませんが,
ボールを置いておけば,
ひとりでボール遊びをする姿を
見せてくれることもあります。

1mくらいの距離なら
近づいても逃げなくなり,

私が仕事から帰ると,飛び跳ねて
喜んでくれるくらいにはなりました。

 

でも,触らせてはくれないし,
散歩に誘っても
庭から出ることはありません。

 

 

そんなある日,
私は大変な事に気づきました。

 

首に食い込んだ首輪を替えて3年が経ち,

今度は首輪が風化して,
大きな亀裂がいくつか入っているのです。

 

また首輪を交換しなければなりません。

 

自分で交換できないかと,
首輪を持って近づこうとしてみましたが,
相変わらずの拒絶反応。

首輪を持っていなくても
触らせてくれないのですから,
首輪を見せると近くにも寄れません。

 

狂犬病の予防接種の時期にも
なっていました。

 

車に乗せることができないミルは,
これまで先生に来ていただいて
狂犬病の予防接種とワクチンを
打ってもらっていました。

 

首輪の交換と注射について,
それまで協力してくださっていた
動物病院に相談しました。

 

これ以上ミルにかかわるのは
危険と判断されたのか,

連れてくることができればどうにかします

という返事が返ってきました。

 

連れていくことができないことは
わかった上で言われていたと思います。

 

病院の方たちを
何度も危険な目に合わせているので,
仕方ないと思いました。

 

でも,これから
一体どうすればいいのでしょう。

 

首輪の状態はかなり悪くなっていて,
いつ切れるかわかりません。

一刻を争います。

 

首輪が切れて,
ミルがどこかに行ってしまったら

車にひかれてしまったら

愛護センターに連れていかれてしまったら

 

考えると気が気ではありません。

 

田舎なので,
近くに動物病院は他にありません。

 

いろんな人に訊き,
遠くても来てくれそうな病院に
何件か電話をしてみましたが,
やはり断られました。

 

ミルに罪はないのに,
この子を助けてやることができない。

途方に暮れ,ミルと一緒に
消えてしまいたいと思いました。

 

でも,猫たちもいます。
最後まで責任を持たなければいけないのは
ミルだけではないのです。

 

泣いていてもどうにもなりません。
とにかく何とかしなければ。

 

ぼんやりした頭に,
犬の保護団体ことが浮かびました。

 

ミルを飼い始めてから,
犬のことを勉強できるかと
何度か訪れたことがあり,
毎月少しだけ寄付をしている団体です。

 

野犬も相手にしているところだったら,
ミルのような特殊な犬でも
手を貸してもらえるかもしれない。

 

藁にもすがる思いで,
保護団体にメールを送りました。

数日して,返事が!

 

何度かメールや電話のやりとりがあり,
忙しい保護活動の合間をぬって,
来ていただけることになりました。

 

これでミルを助けてやれる。
うれしくて涙が出ました。

 

3月24日,
保護団体の方が来てくださる日が
やってきました。

 

見たことない車が停まり,
知らない人が庭に入ってきたので,
ミルは警戒して
石の橋の下にもぐってしまいました。

 

ここに隠れるときは
「ボクに手を出さないで」
という合図です。

ここにいるとき無理に何かしようとすると
威嚇して嚙みつこうとします。

 

「噛みます。危ないです。」

「噛まれても大丈夫ですよ。
ここも,ここも,噛まれた跡です。」

 

そういって見せてくださった腕には,
たくさんの傷跡がありました。

命がけで犬たちを保護してくださっている
方なのだとわかりました。

 

分厚い皮の手袋をして,
橋の下のミルに声をかけ,
手を伸ばされます。

 

ミルはパニックを起こして凶暴になり,
手袋をされた手に噛みつきます。

 

しばらく格闘してくださいましたが,
様々なタイプの犬たちと接してこられた
百戦錬磨の方でも,
初対面のミルに首輪をつけることは
できませんでした。

 

「やはり麻酔が必要ですね。
僕が病院に電話をしてみましょう。」

 

電話のやりとりの中で,先生が

「不可能です。」

と言われたのが聞こえました。

「僕が押さえておきますので,
麻酔をお願いします。」

何とか頼み込んでくださり,
動物病院の先生が来てくださいました。

 

暴れるミルを,愛護団体の方が
毛布で橋のこちら側から押さえ,
奥側から先生が麻酔を。

麻酔が効くまで待ち,
その場で体重を測って,
首輪を付け替えてくださいました。

外した首輪は格闘したことでさらに傷み,
何本かの糸がつながっているだけに
なっていました。

ギリギリのタイミングで,
ミルは救ってもらうことができました。

助けていただいた方たちに,
今でも心から感謝しています。

 

狂犬病の注射とワクチンも済ませ,
そのあと,覚醒させるために
病院に連れて帰ってくださいました。

ミルが病院に連れていかれ,様子を見にきたルナ

ブラシをかけられないミルは,
この時期,抜けた毛がぼこぼこ浮いて,
見た目がお爺さん犬のようなのですが,

迎えに行くと,
スタッフさんにブラシをかけてもらい,
見違えるように若返って眠っていました。

 

束になって落ちる
ミルの抜け落ちた毛を集めていた私。

「抜けた毛,
持って帰ってもいいですか?」

「⁈ ポリバケツに半分以上ありますけど
持って帰られますか⁇」

どうやら,袋に入れて持って帰れる量では
ないようだったので,諦めました。

もともと,毛は
ミルがいなくなってしまったときの
形見と思って拾い集めていたのです。

生きたミルがこれからも
傍にいてくれるなら必要ありませんよね。

 

この日の体重は18㎏。

これ以上大きくなることはないでしょう。

まだ麻酔がとけず眠るミル
目が覚めて起き上がり
自分で犬小屋に入りました

たくさんの方を危険な目にあわせ,
今回もなんとかミルとの生活を
続けることができるようになりました。

 

でも,このままミルが変わらなければ,
また同じ事が起こります。

いつも誰かが助けてくれるなんて
あてにはできません。

 

もう,飼い始めて4年目。

この子はこれ以上変わらないのではないか
そんな諦めの気持ちが心を占めていました。

 

そんなある日,テレビを見ていると,

「この子は5年間触れなかったんです。」

と,飼い犬の頭を撫でている人がいました。

 

5年経って,変わる子もいるんだ。
かすかな希望が湧いてきました。

 

 

友達ができたら変わるかもしれない ラッキー現る!

 

人間には寄ってこないミルが,
唯一自分から近寄ろうとしていたのが,
たまに庭に出て日光浴をさせる
猫のルナでした。

ルナが出てくると,
嬉しそうにしっぽを振って
近づいていきます。

 

ルナは嫌がってミルの鼻を引っ搔きます。

 

鼻から血を流しながら,
それでもミルはあきらめず,
ルナに寄っていきます。

 

何度も引っ掻かれ,どうしても
相手にしてもらえないとわかると,

ルナの視線が向いている方に移動し,
自分を見てもらおうとします。

 

その行動があまりに健気で,
チョット笑えました。

ミルにもこんな
ホンワカした一面があるのです。

 

 

もしかしたらミルも,友達ができたら
もっと変わるのかもしれない。

 

ルナは大きなミルを怖がって
相手にしてくれないので,

ルナくらいの大きさの
小型犬ならいいのでは?

 

保護団体にボランティアに行ったとき,
大人になったらルナくらいの大きさに
なるという黒いかわいい仔犬がいたので,
スタッフさんに相談してみました。

 

猫が3匹いることで
経済的な心配をされたのと,

仔犬は必ず室内で飼うこと。

えこひいきをしてはいけないので,
仔犬を引き取るなら,
ミルも室内に入れること。

という条件が出されました。

 

ミルを室内に入れるのはかなり厳しい。

ずっと外で過ごしているので,
ストレスがたまりそうです。

 

 

どうしようか悩んでいるときに
現れたのがラッキーです。

ミルが吠えるので庭に出ると,
大きな黒い犬が庭の前をうろついています。

色が違うだけで,姿はミルに似ていました。

 

それからも毎日,黒い犬はやってきます。

向かいの山から出てきているようで,
その度ミルが激しく吠えました。

 

うるさくて

近所にも迷惑がかかるので,
とりあえず保護して,
それからどうするか考えようと
餌付けを始めました。

 

首輪をつけ,リードをつけて
ラッキーを庭に引き込んだときの
ミルの嬉しそうな様子は忘れられません。

 

よく似た白黒の2匹は,庭の真ん中で,
クルクル円を描くように回りながら
じゃれ合いました。

その姿を見て,

この子をミルの友達として迎えるしかない

そう思いました。

 

財布の心配もして小型犬を考えていたので
こんな大きな子だと
どうなるかと思いましたが,
ミルが嬉しそうなので
私が頑張るしかありません。

 

 

初めて2匹が庭で過ごす夜。

防犯カメラの映像で,
ミルが庭の真ん中で寝ているラッキーに
自分の毛布を運んでいってるのを見ました。

 

それ,私たちが最初に
ミルにしてやったことだ!

 

驚きました。

 

ミルは私たちから毛布をもらったことが
きっとうれしかったのでしょう。

だから,ラッキーにも同じことを
してやろうと思ったのではないでしょうか。

 

その気持ちは,
ラッキーには伝わらなかったようで,
その夜は土の上で寝ていましたが,

次の夜にはミルがくれた毛布の上で寝て,
その次の夜には屋根のある車庫の毛布を
ミルから奪い,
ミルは車の下で寝ていました。

 

 

2匹に一緒にエサをやると,
おとなしいラッキーが豹変して
噛みつく勢いでミルを威嚇し,
まずミルのエサをむさぼり食べ,
そのあとゆっくり自分のエサを食べます。

 

ミルは反撃するでもなく,
あっけにとられてその様子を見ていました。

 

仕方がないので,
ラッキーはエサの時だけ庭の端に繋いで,
ミルとは別々に食べさせるようにしました。

 

こんな風に,
寝床を奪われ,エサも奪われ,

あとから来たラッキーのほうが何かと
大きな顔をしていましたが,
ミルはラッキーがかわいくて
仕方がないようで,
怒ることもなく全て譲っていました。

 

先住犬が上であることは
教えなければいけないと聞いたので,
エサをやる順番をミルからにするなどして
教えていきました。

 

車に乗って予防接種に行けた! が,飼い犬に手を噛まれる

ラッキーが来てから,
ミルは表情豊かになり,
とても活動的になりました。

 

私たちがラッキーにすることを見ていて,
ラッキーが拒まなければ
自分もされて大丈夫と判断するようで,
それまでできなかったことが
いくつかできるようになりました。

 

最初は暴れて危険でしたが,
リードの首の近くを持ち,
リードを交換することも
できるようになりました。

そのおかげで,
4年間ミルを繋いでいた重い鉄の鎖を,
軽い細いリードに変えることができました。

そして,

リードで導かれて車に乗るラッキーを見て
車に乗ることができるようになったので,
ミルも病院まで予防接種に
連れていけるようになりました。

 

病院に着いてからは,

車の後部座席の下にもぐり
威嚇して暴れるミルの頭を,
分厚い手袋をしてブルーシートで押さえ,
その間に注射してもらう
という状態でしたが。

初めての病院での予防接種から帰ってきたところ。「ボクできたよ」と,自慢げな笑顔。

 

これが
2017年から2020年まで4回続きます。

 

一度は油断して素手で首輪を持ってしまい
ガブガブ4回も噛まれてしまいました。

まさに,

飼い犬に手を噛まれる です。

 

「先に手の治療をしましょう」

先生に言われましたが,
小指に血豆がひとつできているだけで,
流血はしていなかったので大丈夫でした。

 

ミルが本気で噛んだら
骨が折れていたはず。

すごい顔で唸っていたけど,
一応加減して噛んだようでした。

私を噛んだ後の笑顔。お疲れさまでした。

 

そして,注射が終わると,

いつも1年で一番いい笑顔を見せるのです。

私は痛かったよ…

 

触れない犬 ミル お散歩ができるようになる

 

ラッキーはお散歩することができたので,
ミルも一緒に連れていけないか
挑戦してみましたが,
これはまだできませんでした。

どうしても,
庭の外に出るのは怖いようなのです。

 

でも,ラッキーが散歩に出ている間
ずっと吠え続けているので,
自分も行きたい気持ちはあるのだろう
と感じていました。

 

実際ミルがお散歩できるようになるのは,
ラッキーが来てから1年以上経ってから。

大好きだった猫のルナが死んだ翌日でした。

きっとそれはルナからのプレゼントだった
のだと思っています。

 

 


それは,もうすぐ春が来る
2018年2月の後半でしたでした。

 

3匹目にやってきた茶色い犬を
保護しようと頑張っているときのことです。

 

茶色い犬を庭に誘導しようとしていると,
ミルがその犬に向かって吠え付き,
門から出そうな勢いで
飛びかかろうとします。

 

でも,ミルには門ギリギリの長さの
リードがついているので,
門の手前で
二本足で立ちあがる状態になるのです。

 

もしかして,
柱に固定したリードを外しておけば,
そのことに気づかないミルは
勢いで門から飛び出すのでは?

 

次に茶色い犬が来たとき,
試しにそっと,
リードの柱側を外してみました。

 

外した柱側のリードの端を持ち,
様子を伺います。

 

いつものように,茶色い犬に吠えまくり,
飛びかかろうとするミル。

 

いつもなら,リードがピンと張り
門の手前で止まるはずでしたが,
ミルはそのままの勢いで道路に出ました。

 

アレ?
なんでボクはここにいるんだ⁈

 

キョロキョロするミル。

やった‼
ミルが自分で庭の外に出た‼

 

驚いたミルは,
その時はすぐに庭に戻りましたが,

自分で庭から出たことに自信が持てたのか
そのあとも何度か外に出てみて,
怖い場所ではないことを
確認したようでした。

 

かなり抵抗はしますが,
リードの首近くを持ってお散歩リードに
付け替えることはできたので,
お散歩にも挑戦してみました。

 

ひとりでは不安なのか,散歩を嫌がるので
ラッキーと一緒に出かけます。

 

ラッキーだけでも引っ張られて
よく転んでいたので,
2匹一緒はかなり大変でした。

 

この頃は,
2匹合わせた体重よりも,
私の体重が少し重いくらいでした。

勢いよく引かれれば,
こちらが完全に負けてしまいます。

 

最初は両手に一本ずつ
リードを持ってみましたが,

2匹が違う方向に動くと
身体が2つに避けそうなくらい引っ張られ
どちらかのリードを
放してしまいそうになります。

 

行きたい方向が違うときは
お互いの力で引っ張り合ってもらおう。

2本のお散歩リードを
縄のようにクルクル巻き,
1本にして持つことにしました。

外に出ると,ミルは嬉しそうに
どこまででも歩いていきました。

本当は散歩の好きな子だったのですね。

私もうれしくて,
毎日たくさんお散歩しました。

 

花が咲く,いい季節がやってきました。

 

 首輪がつけられないミルと 西日本豪雨災害

お散歩もできるようになり,
少しですが,
触ることができるようになってきたミル。

 

前回の首輪交換から2年経っていました。
そろそろ新しくしないと,
また亀裂が入り始めるころです。

 

触れるようになったし,
これなら首輪を替えさせてくれるかと,
自分で交換を試みていました。

 

新しい首輪を自分の首に巻いて見せたり,ラッキーに巻いて見せたり。

 

でも,やはり
首輪には異常なほど抵抗し,
持っているだけで橋の下に隠れたり
遠くに逃げてしまいます。

 

2018年6月11日。

隣でおとなしく寝転んでいたので,
今の首輪を外せるかとやってみました。

 

抵抗することもなく,
あっさり外させてくれました。

 

なんだ。
大丈夫じゃん。

 

じゃ,新しいのをつけよう!

 

先に古いのを外したのが間違いでした。

どうやってもやはりつけるのは無理で,
ミルはしばらく首輪なしで
過ごすことになりました。

首輪を外した直後

楽しみにしていたお散歩も
もちろんできません。

 

通学の小学生も通るので,
最初の1週間は,仕事に行くとき
母に庭で見張っていてもらいました。

 

庭と道路を仕切る塀は低く,
築山の上に上がれば
道路に飛び降りることだってできます。

 

それでもミルは
決して外に出なかったそうです。

 

車が出入りするときは,
門扉を開けなければいけませんが,
その隙を狙って
外に出るようなこともなく,
庭でおとなしく過ごしていました。

いつまでも母に見張りをしてもらう
わけにもいかないので,
金網を買ってきて
庭の周りをぐるりと囲みました。

 

これで一応,
庭から出ることはできなくなりました。

 

でも,
このままにしておくわけにはいきません。

 

どうしようか悩むうち,
ひと月近くが過ぎていきました。

 

そして,7月6日金曜日,
あのとんでもない災害が起こったのです。

 

西日本豪雨災害。

 

3日間の避難生活のあと,
住み慣れた家を捨てて
引っ越しをすることになるのですが,

ミルだけどうしても車に乗せられず,
避難も引っ越しもできなくて,

危険な状態でこの家に残していくことに。

 

西日本豪雨災害の時のことは

https://d-marron.com/heavyrain

で詳しく書いています。

 

ミルの引っ越し

 

ひと月半かかった引っ越しの間も,
ミルは前の家にひとり残り,
さびしく夜を過ごしていました。

 

 

そして引っ越しもほぼ落ち着いた8月25日,
妹と姪,母に手伝ってもらい,
4人がかりで首輪をつけることになりました。

 

妹が持ってきてくれた大きなネット状の網で
とにかくミルをどこかに追い込み,

柄のついた魚取り用の網を顔にかぶせて
噛めないようにしてから,
網の上から首輪をつける計画を立てました。

 

まず,みんなでネットのような網を広げ
うちに迷い込んで来た日に入っていた
駐車場の奥の倉庫に追い込むことに。

ミルは威嚇しながら逃げ回ります。

興奮すると私にも噛みつこうとするので,
噛まれないように気をつけながら
みんなでミルを追います。

ミルはここなら手が出せないだろうと
車の下に潜り込んでしまいました。

竹ぼうきでつついて車の下から追い出すと,
また網で車庫の奥へ追いこみます。

 

今度は犬小屋に逃げ込みました。

 

チャンスです!

 

魚取り網を犬小屋に入れ,
顔にかぶせました。

そして,柄をグッと下に下げ,
顔に網を密着させます。

多分これで噛むことはできないと思います。

網の上からリードをつけた首輪を巻きました。

網の中から怖い顔で睨んでいるので,
いきなりガブッとやられそうで
怖かったのですが,
なんとか暴れずつけさせてくれました。

 

そのあと,顔にかぶせた網を
ハサミでチョキチョキ。

怒った顔が出てきました。

噛まれないようにそっと
首にかかった網の輪っかを上にあげると,
首輪の下に挟まっていた網もするりと外れ,
首輪だけが残りました。

やりました‼

 

私たちも拍手喝采でしたが,
ミル本人も嬉しそう。

 

ミルも本当は早く首輪をつけてもらって
一緒に行きたかったのだと思います。

素直じゃないんだから。

思ったよりうまくいってホッとしましたが,
追いまわしたときに
妹が持ってきてくれた網もかなり破れました。

大捕り物でした。

記念撮影。

ミルは大乱闘で喉が渇いていて
カメラを見る余裕がありません。

 

このあとリードで誘導すると
素直に車に乗り,新居に到着しました。

ラッキーとの再会です。
嬉しくてたまらない顔。

だから早く一緒に行こうって言ったじゃん。

 

首輪をつけるときに使った網です。

顔を出すとき切ったところは
次回の首輪交換のため?に
縫って補修しておきました。

 

 

引っ越し後から現在のミル

引っ越してきた先は,
犬を飼うおうちが多い地域でした。

犬に理解がある方が多く,
たくさんの人に名前を呼んでもらって
声をかけていただいたおかげで,
ミルも少し性格が和らいできました。

家にいるときは,
一段高い道路から見下ろされるのが怖いのか
人が通るたび吠えますが,
外で人に出会うと,
吠えるどころかしっぽを振って
近寄って行こうとします。

でも,ラッキーが人を怖がって逃げるので
近づくことはできませんが。

 

一度だけ,
近所の方に正面からズンズン近づいていき,
鼻をくっつけて
匂いを嗅いだことがあります。

もしかしたら,
少し舐めていたかもしれません。

私にもそんなことをしたことはなかったので
びっくりしました。

優しい方だから,
好きなのだと思います。

 

5歳くらいから少しだけ触ることが
できるようになっていましたが,

2021年現在,お散歩中であれば
身体中ガッツリ撫でさせてくれるように
なっています。

以前は触れなかった頭も,
撫でると気持ちがいいようで,

「撫でて。」

と言いたげに視線を送ってくるので,
触れなかった5年分を取り戻すくらい
しっかり撫でています。

 

頭のてっぺん,耳の下や首の周りなどを
撫でられるのが好きなようです。

 

目の下についた目ヤニも
素手なら取らせてくれるようになりました。

本当は濡れたティッシュなどで
目ヤニを拭きたいのですが,
手に何か持っていると逃げてしまいます。

なので,まだブラシもかけられません。

毛が抜ける時期は,
破れたぬいぐるみのように
抜けた毛の束が浮き上がり,
すごい姿になります。

お散歩中の触れるときに,
浮いた毛をつまんではお散歩バッグに。

集めた毛は捨てられなくて,
全部袋に入れて取ってあります。

 

 

ミルは他の犬との関係を
うまく作ることができません。

皆さん仲良くしてくださろうと
ワンちゃんとのコミュニケーションを
試みてくださったのに,
どの子とも全くダメでした。

 

鼻がくっつくくらいまで近寄ったところで
急に怖くなるのか,

「ガゥ!」

と威嚇してしまうので,
近づけることができません。

 

遠くから
吠えて飛びかかろうとすることもあります。

 

せっかく周りの方たちが
受け入れようとしてくださっているのに,
あとから入ってきて態度のデカい
迷惑なヤツです。

 

なので,できるだけ他のワンちゃんがと
時間をずらすようにして
散歩をさせています。

たくさんのワンちゃんがいるので,
どうしても少しは重なってしまうのですが。

 

 

でもミル,実は
ラッキーといるから気が大きくなって
デカい態度をとるだけで,
ひとりでは散歩できないほどのビビりです。

1匹で外に引っ張り出しても,
10メートルも行かないうちに
しっぽを下げて引き返してしまいます。

 

ラッキーと一緒のお散歩は大好きで,
散歩を誘いに行くと,
しっぽを振って2本足で飛び跳ね,
駆け回って喜びます。

でも,何か違和感が。

何がおかしいんだろう?

 

「荘厳な感じの犬だね。
どの写真見ても,口を閉じてる。」

ある日,友達に言われて
違和感の理由に気付きました。

 

身体中で喜びを表しているのに,
いつもムスッと口を閉じていたのです。

 

気づいたらとてもおかしくて,
この異様な光景を動画にしたい,と
頑張っていますが,
カメラを向けると飛び跳ねてくれないので
まだうまく撮れていません。

短いけれどそんな様子です 

 

お手という言葉は相変わらずダメです。

ラッキーがするのを見ているから
お手の意味はわかっています。

わかったうえで,
お手というと手を引っ込めるのです。

寝そべってくつろいでいるときに
手を触ろうとしても,
素早く立ち上がって逃げます。

頭を撫でさせてくれるようになっても,
前足は未だに触られたくないようです。

 

 

最近ミルが気にしているのは,
近所の若い男の子のワンちゃんと,
ウチの猫たちです。

多分,かなり好きなのだと思います。

だけど,近くに行っても,
どの子とも目を合わせることができません。

 

以前,猫のルナにグイグイ近づいて行って
毎回鼻を引っ搔かれていたあのミルの
積極性が見えなくなりました。

あの頃は幼かったからできたのでしょうか?

 

ラッキー以外の友達もできてくれたら
いいなと思うこの頃です。

 

 

ミルが来た当時のことを思えば,
今の状態は夢のようです。

触ることもお散歩することもできなかった
あのミルが,
喜んで散歩に出かけ,

「撫でて」

とねだり,
うっとり目を閉じているのですから。

 

周りのワンちゃんたちとの関係など,
まだまだ問題はありますが,
これからも少しずつ,
一緒に解決していければと思っています。